「彼女。百合小説アンソロジー Audible版」を聴いてみましたので話題に。
まず7作品が収録されている本作ですが、全体的な印象としてはややビター成分が多めな印象です。
勿論、ビター成分・・・どんなお話、作風を苦いと思うかは個々人の好みに依りますが、少なくとも相思相愛の二人が何の波乱も無く結ばれて〆、と言う素直はお話は無いです(苦笑)
とは言え、恋愛感情を始めとした女性同士の関係を中心に据えている=百合作品である事は間違い無い作品ばかりであり、そういう意味で”百合小説アンソロジー”というタイトルに間違いは無いです。・・・作風や展開の好みが分かれそうな作品は有りますが(苦笑)
椿と悠
タイトル通り椿と悠という女学生のエピソード。男性キャラが絡んだ、ちょっとしたすれ違いを起こすも最終的に二人の仲は続くというもの。
トップバッターと言うせいか、すっと二人の関係が繋がると言う訳ではない=すれ違い(と言うよりお互いの勘違いと言う方が正しいかも?)という波乱こそあるものの、王道的な展開をしており一番取っつき易いお話だと思います。
恋澤姉妹
荒廃した世界観(紛争地域が舞台)で恋澤姉妹という何人も寄せ付けない・・・自分達に関わろうとする者を全て殺してしまう二人を主人公:”せり”が追うエピソード。
”せり”の師匠である”じょやこ”が恋澤姉妹に殺された事がその発端ですが、”じょやこ”が恋澤姉妹に会いに行った=殺されに行った真意や恋澤姉妹がそんな極端な行動を取る理由、主人公の最期など色んな意味で強烈なエピソードでした。
馬鹿者の恋
色んな意味でタイトル通りのエピソード。詳しく書くと内容その物になってしまうのでちょっと書き辛いですね(苦笑)
ですが他の作品と同様にタイトルを上手く回収していたりと展開その物は面白かったです。・・・ただ、百合ップルが成立するという点では素晴らしいものの主人公視点だと苦味の強い作品であるとは思います。
上手くなるまで待って
小説家志望だった主人公:”なぎさ”がかつて書き上げた作品をwebに発表された事を受けて犯人探しをする過程でかつて憧れていた大学の先輩:”まゆ”と再会するエピソード。
小説を勝手に投稿した犯人を探す中でまゆ先輩との時間の振り返り、まゆ先輩の真意を探っていく展開は-自身がまゆ先輩に憧れつつも何故か疎遠になってしまっていたなどの謎もあり-面白かったです。
また、お話としても最後にタイトルが上手く回収される・・・実際に作中でキャラに指摘されていたりする事なども面白いと思います。
ただ、まゆ先輩がなぎさに強い好意を持っていた事を伺わせつつも関係が途切れてしまっていた事もあり、男性と結婚してしまうので百合的にはちょっと寂しい結末と言えるかも知れません。
百合である値打ちもない
”ままゆ”と”のえ”という二人でチームを組んだプロゲーマー兼YouTuberのエピソード。
主人公:”ままゆ”のお相手である”のえ”が相当な美人であるという外見に”格差”があるという点が様々な所で活かされており、そこが面白いですね。
・・・お蔭でその”格差”が強調されるシーン、特に二人の周囲や一部のファンの自分勝手な言動は本当に気分が悪くなるレベルで描写されています。
勿論、作品のレベルが高いからこそ感じた要素ですし-残念な事ですが-本当に有りそうな展開なのが上手いと言えます。
百合的には主人公が下した”決断”の理由は一抹の切なさと悲しさを感じさせますが、二人の仲が揺るぐ事は無いと思わせてくれた・・・特に悲しさを漂わせつつも”まゆゆ”の決断を全面的に受け入れた”のえ”の想いは素晴らしく、その上でタイトルを上手く回収していく展開は印象的でした。
九百十七円は高すぎる
一人の先輩を同時に好きになった二人の同級生のエピソード。
関係性という点ではビターですが、お話の内容としてはたまたま耳に入った先輩の話・・・「九百十七円は高すぎる」といった話を元に先輩が何を買ったかというのを延々と探索&推理する話で、割とコミカル。
・・・聞いていると数字の話が多く(917円という金額を消費税などの要素を交えて買った商品を推理するので)てちょっと混乱しますが(苦笑)
ちなみに二人は片方が先輩役になって”行為”をするというお楽しみをしていたりするので、百合的にはコミカルな雰囲気ながらかなり踏み込んでいたり。
とこう書くとちょっと倒錯的と言うか、ビターな感じがしますが、二人が両想いになるかも?という部分もあり、本作の中では良い意味で軽い作品だと思います。
微笑の対価
ある事が原因で一人の男を殺して隠蔽してしまった二人の女性の話。
疑心暗鬼、恋情、警察の動向などサスペンス要素が強く、かなり緊張感が有るエピソードですね。
ヒロインである”しの”の心情が最後まで読み切れない所があり、お話としても百合としても面白い話だと思います。
ただ”しの”が殺した男性と関係を持っていた事もあり、誘惑するような試すような”しの”の言動を読者が主人公である”ゆうか”と同じく最後までを信じ切れるかどうか・・・試されているかのような所は好みが分かれるかも知れません。
個人的には結末まで含めて大いに楽しませて貰いましたけど・・・ビター成分がかなり多い作品ではあると思います。
朗読は”久保田 ひかり”さん、”井料 愛良”さんで管理人は声優さんをあまり詳しく存じ上げないので、しっかりと名前を認識しつつ音声を聴いたのは今回が初。
印象としては流石は声優さんと言うべきか聞き取り易い声で特に引っ掛かると思った所は無いです。
またキャラ的にも-アンソロという中~短編集という事もあり-作中で語られた印象通りで違和感は無いです。Audible=朗読という形式に抵抗が無ければお勧めできる作品だと思います。
・・・価格がどうしても高めになるので、その点がネックと言えばネックですが(苦笑) Audible会員になると契約中は聴き放題なのでお試しの無料期間や会員料が安くなった時を狙って聴いてみるのが良いかも、ですね。