2018/2/27 記事を追記、修正
ここ数年「紙の本を買って」ツィートをよく見かけるように
さて、タイトル通り今回は「紙の本を買って」ツィートについて。
ここ数年、作家さんのツィートで「初動1週間で買って」、「紙の本で買って」、「売り上げが悪いから連載が打ち切りになった」などのツィートを見かけるようになりました。
ツィッターに疎い管理人がちょっとチェックしただけでも下記のようなツィートが出て来るのですから、ツィッターに詳しい方に取っては耳にタコが出来るほど聞いた話なのではないでしょうか。
こういったツィートに関しては基本的に好印象です。連載継続の努力を作家さん本人がされていると感じられますから。それに読者からすれば打ち切りになるかどうかのラインなど分かるもはずも無く、それを回避できる手段を教えて貰える訳ですし。
まぁ正直に言えば出版社は全ての連載作品に対して打ち切りになるかどうかの目安になる”打ち切りメーター”を公開して欲しいぐらいですが(笑)
と冗談はともかく。実際、打ち切りになってしまった上記の「少女騎士団×ナイトテイル」ですが、早くも復活の兆しがある事がツィッターで告知されており、それがこうしたツィートによる活動と無関係であるとは思えません。
ですが・・・本音を言うと「そっちの都合ばかり言われても・・・」と思った事もまた事実です。
何故に「物語が始まってキッチリ終わる」という当たり前の事に対して、読者が読書スタイルの制限や労力の投入を要請されなければならないのだろうか
誤解しないで欲しいのですが、作家の先生方がこうしたツィート(要請)をする事自体を批判しているわけありません。
先述したようにこれで打ち切りを防げるなら読者にとっても有益だし、「自分の作品は面白いから読んでくれ!」と言うのは作家として当たり前の発言でしょう。むしろ、そう言えないのなら「貴方は面白いと自信を持って言えない作品を読んでくれと言っているのですか?」という話になってしまいます。
では何が問題かと言うと売り上げとして”紙の本”しか評価されない。電子書籍が連載継続の”評価”としてカウントされないのは理解出来ないしおかしいだろう、ということです。
問題は出版社や業界に有り、またこの問題の放置も問題
●まずこの点についての問題点は、やや安価になっているとはいえ電子書籍も普通に売っているのに連載継続の評価になっていないこと。
読者からすれば、お金だけ取って一番重要な要素である”物語を今後楽しむ権利”を取り上げられている事になっていると言える訳ですからね。
また、これは個人的な考え方ですが「本を読む」という事以外に対してかかる労力は、極論してしまえば読者にとって”余計な手間”なのです。
つまり―これもまた極論ですが―出版社サイドは暗に”紙の本で”、”発売から1週間で”、”しかも出来れば書店で”購入するという”投資”を作品に対してせよ、と言っていることになります。
ここで性質が悪いのは”暗に”という部分。
作家先生のツィートが無ければ、もしくは気づかない電子書籍読者はその作品が継続する事に貢献できない事を知らずに購入するでしょう。そして、「紙の本で買って」ツィートを知る善良かつ愛のある読者は先ほど挙げた”投資”を行うでしょう。
ですが、考えてみて下さい。
これで連載が首尾良く継続すれば良いです。ですが、もしこれで打ち切りの憂き目にあったらどうでしょう?
「紙の本で買って」ツィートを知らない電子書籍購読者はそのまま電子書籍を購入し続けるだろうし、後でそれを知ったら知ったで落胆する事は想像に難く有りません。
そして善良かつ愛のある読者はどう思うでしょうか。
時間の無い中でも書店に駆け込み、目的の作品が無ければ次の書店へ急ぐ。
愛のある人ほど書店での購入に拘るだろうから、手に取るのは更に遅れるでしょう(書店で注文取り寄せをすると数週間待たされる事もあります)。中々作品が読めない中、ツィッターなどでは作品感想が飛び交うのを尻目に「自分は作品継続のために力を尽くしている」と自分を言い聞かせて待つでしょう。
そうした事を繰り返す中で迎えた結末が連載打ち切りだとしたら?
当然の事ながら誰もその苦労を褒めてはくれないし、ある種の”投資”しかも明確に要請された投資では無いのだから投下した資本(この場合は労力)が回収される事も、当然有りません。
先ほど冗談交じりに出した”打ち切りメーター”ですが、こうした明確な理由が公開されていれば、まだ自分を言い聞かせる事も可能でしょうが、それも無い中、今まで苦労した自分をどう慰めろと言うのでしょう?
こう考えると闇落ちした「百合男子」の”風華”の事を笑えない人は結構多いのでは無いでしょうか。
●こうした事を書くと「作品への愛が足りない」といった論も出ると思います。
雑誌掲載時に読者アンケートを送ったのですか?、保存用や布教用の単行本を買ったのですか?、と。
だが、しかし今少し管理人の考えを聞いて下さい。そして、話を聞いて下さるならそれを説明するために少し話を逸らさせて下さい。
・・・管理人はスマホを持っていませんが、スマホで漫画(本)を読む人は珍しくないのが現状でしょう。
そういった人達はWebコミックサイトで漫画を読む事は多いだろうし、最近ではLINEでも漫画を読めると聞きます。そして例え広告収入がメインだとしても、そうした漫画サイトは自社作品の単行本の宣伝や商品ページへのリンクを随所で挟むでしょう。
さて、ここでまた考えて下さい。
そうした人達が果たして紙の本をわざわざ労力の”投資”をしてまで購入するのだろうかと。
勿論、スマホを愛用していても紙の本の魅力は損なわれないですし、色んな考え方の人が居るでしょう。
ですが、Webコミックサイトで漫画を読んで単行本を購入するという流れを考えたときに真っ先に思い浮かぶのは「続きや以前の話など非公開になっている部分を読みたい」という物です。
そして単行本を購入する決断を下した時点で考えられる読者の思考は「早く続き/以前の話を読みたい」だと思います。
そしてその欲求を満たす商品は有ります。・・・そう電子書籍ですね。
元々スマホで漫画を読んでいる時点で電子書籍に対して抵抗が大きいとは考え辛く、この選択肢を外す必要は無いでしょう。
先ほどの「紙の本で買って」ツィートを除いては。
ここで先ほど述べたような愛の深い人ならば紙の本購入に奔走してくれるでしょう。ですが、それだけの事をしてくれるような人はどれだけ居るのでしょう?
特に早く読みたいと思ったときに読めず、その本が「いつか読む」本棚に収められる事は無いでしょうか。いや実際に本棚に収められるなら、まだ良いでしょう。
嫌らしい見方ですが、出版社からすれば読まなくても買いさえしてくれれば良いのですから。
しかし、世の中には”欲しい物リスト”なんてリストもあります(Amazonユーザーにはお馴染みの機能でしょう)。
神林しおり嬢の言葉じゃないですが、そうやって”いつか買うリスト”に送られ、読まれも買われもしない本になる=売上に全く貢献しない本になる可能性だって大いにあるのです。
ここで話を戻しましょう。
先ほど「そういった行動に走るのは愛が足りないからだ」という論があると書きました。ですが、ここで見方を変えて電子書籍を評価にカウントし、そういった愛の足りない人の購入分も評価にカウントしてみたらどうでしょう?
連載は継続しやすくなり、愛の深い人は無理に紙の本を買ったり、いち早く読むために紙の本とは別に電子書籍を買う必要は無くなります。
もし紙の本を購入するのに多くの時間を費やしていた人は感想をツィートしたり、友と作品を語らう時間をより多く得られるでしょう。
作品を深く愛している人達なのだから、その時間は至福の一時になるでしょう。
でも現実はそうじゃありません。
「紙の本で買って」ツィートを信じるなら、愛の深い人ほど”発売から1週間で”、”紙の本で”、”しかも出来れば書店で”購入するために奔走する事になります。雑誌を購入してアンケートも送るでしょう。
中には連載の継続を信じて同じ単行本を複数購入する方も居るのではないでしょうか。
そう、察しの良い方ならもう気付いているでしょうが、現状は作品への愛が深い人ほど負担が圧し掛かるシステムになっているのです。
●「紙の本で買って」ツィートを信じるなら、こういう現状を受け入れて本を読なければならない事になります。
出版社や業界にはそれぞれの事情があるのでしょうが、読者からすれば馬鹿馬鹿しいにも程があるでしょう。
それに、です。
先ほどスマホユーザーを想定して単行本購読の流れをシミュレートしてみましたが、そういった読者がこうした現状を知ったら、どう思い、どう行動するでしょう?
先ほど述べたように”いつか買うリスト”に送られて放置される可能性は勿論ですが、本による連載作品その物に対して不信感を持ちはしないでしょうか。
ただでさえスマホは万能のツールです。
別に漫画や小説を読まなくたって無数の無料ゲームがありますし、動画サイトへ行けばこれまた無料で様々な動画が楽します。
いや、本を購入する意思があるのですから、それこそ他の媒体のクォリティの高い有料サービスを検討しても良いでしょう。
もし管理人がスマホを持っている百合好きから
「最近、漫画や小説の連載を続けるには紙の本を買わなくちゃいけないみたいな話が多いんだけど、部屋に置く場所無いし色々と面倒なんだよね・・・。でも紙の本じゃないと連載が危ういみたいだし・・・」
と言われたら
「じゃあ連載が完結するまで待てば良いし、無理に本で百合を楽しまなくても良いでしょう。スマホがあるなら「ゆゆゆい」プレイするなり、youtubeで百合ボイスドラマを聴くなりすれば良い。お金を出す気があるならAmazonビデオだとかHuluだとかで「終末のイゼッタ」でも見れば十分幸せになれるよ」
と返すでしょう。
読者だけでなく、出版社や業界への呼びかけも行って欲しい
先ほどの例は流石に極端だし、管理人も多くの本(特に百合作品)を愛しています。ですが、今後も「紙の本で買って」ツィートが流行するようなら、流石に辛い物があります。
何故に本だけこうも出版社や業界の都合ばかり押し付けられるのだろうか、と。
これは管理人の見識が狭いだけかも知れませんが、ゲームやCDなどの媒体で「初動で買って欲しい」という話を見聞きした事はあっても「パッケージ版を買ってくれ」といった話を見聞きしたことは有りません。
考えてみれば当然で、同じように購入している人達に対して”差”を付けるような真似をする事自体がおかしいのです。
何だか「紙の本で買って」ツィートを批判しているような流れになってしまいましたが、こうした”現実”を知らしめてくれる事自体は良いことだと思いますし、決して立場が強くない作家先生方が読者に協力を要請することも悪い事だとは思いません。
ですが、出版社や業界はこれだけ電子書籍市場が拡大している中で紙の本だけを尊重するやり方をいつまで続ける気なのだろう?とも思います。
※2018/2/27に訪問者様より情報を頂きました!
全国出版協会の記事によるとコミック単行本では紙の本の売上を電子書籍が上回ったそうです。
情報を下さった訪問者様も書かれていましたが、規模が逆転しつつある状況下で紙の本だけを連載継続の評価にするのは流石にナンセンスでしょうね・・・。
コミックス市場全体が落ち込んでいる事も、そうした姿勢を続けている出版社が少なからず有る事がコミックス市場に暗い影を落としている・・・と思うのは我田引水に過ぎるでしょうか・・・。
出版不況が叫ばれて久しいですが本以外の魅力的な媒体が豊富な現況下で、こんな事を続けていてはますます読者は離れていくのではないでしょうか。
確かに作品を支えるのは読者の愛です。ですが、それは全てを読者に負わせて良いという物では有りません。
なので「紙の本で買って」ツィートと同じように「電子書籍も評価すべき」という言論が盛り上がって欲しいと思うし、そういう出版社や業界への呼び掛けがもっと有って良いと思います。
そう、読者の愛は無限でもなければ万能でもないのですから。