さて、これまた教えて頂いてからかなり時間が経ってしまいましたが、無事に読了出来たので話題に。
訪問者様より情報を頂いた際、”百合作品と銘打った作品よりも濃い百合”、”圧倒される”といった主旨の文言が有ったものの、児童文学=子供向け作品という事で、百合的にも物語的にもどの程度楽しめるのか、正直に言えば懐疑的な想いも有りました。
が!
それは全くの杞憂・・・いや、児童文学だからと侮った管理人の不徳の致す所としか言いようが無かったですね(苦笑)
と言うか、むしろ非常に面白く、中盤~終盤は百合的に良い・・・あぐりこと千代が必死に協力しあって阿豪の家から脱出しようとする姿は勿論、ピンチの連続をどうにかこうにか切り抜けていく姿にハラハラしながらページを捲っていましたからね。
以前に”子供向け”と”子供騙し”の違いという記事を見かけた事が有りましたが、これにぴたりと当てはまる好例と言える作品だと思います。
参考記事
様々な業種・視点からアナログゲーム業界を見る「ブシロードTCG内覧会」セミナー(後編) ( 1 / 3 ) | DuelPortal トレーディングカードゲームコミュニケーションツールとまぁ一言で言えば素晴らしい作品だった「狐霊の檻」ですが、まずは百合要素から具体的に語っていきましょう。
とは言え、百合要素はあらすじからも察せられる通り、狐霊である”あぐりこ”と彼女を鎮める役割を負わせられた少女”千代”の仲ですね。
これは作品の設定である”閉じ込められた人外の者とそれを鎮める役割を負った不幸な人間”にも言える事ですが、伝奇的な物語では割と普遍的なテーマの一つであり、そういう意味では目新しさに欠ける・・・ある意味でお約束な百合では有ります。
※上記のテーマが主題では有りませんが、そういったテーマは百合漫画「道割草物語」にも盛り込まれていましたし
ですが、物語の流れや千代の心情が非常に丁寧に綴られており、完成度が高いこと。そして千代が変に聞き分けの良い”良い子ちゃん”になっていない事が、百合要素を強く感じさせ楽しませてくれます。
上記にかかる部分で個人的に特に良かったと感じたのは、ある理由であぐりこが千代を遠ざけようとした時に、どんなに諭されようともあぐりこと一緒に居たいと千代が言ったこと。
正直、児童文学という事で、千代が聞き分け良く頷いてしまうのでは無いかと心配した物ですが・・・そんな心配を見事に、しかも非常に綺麗な文章で打ち砕いてくれました。
「狐霊の檻」より抜粋
千代は青ざめたまま、じっくりとあぐりこを見つめた。
美しい顔。きらめく目。魂の輝きがあふれるその姿。
ああ、やはり大好きだ。そばからはなれたくない。
たどりつく答えは一つしかなかった。心から望むものは一つしかなかった。だから、少女は答えた。
「それでも……あたしはあなたといっしょにいたい」
物語がピンチの連続になっていく事も有り、ストレートな百合要素は実は少なめな印象だった本作ですが・・・ここのシーンで思い切り射貫かれた感じですね!
また、あぐりこも千代を助けるために自分に取って命と同じくらい大事な物と言っても良い”もの”を犠牲にするシーンが有るのですが、ここがまた良い!
あぐりこの身体などに直接的に害を与えるような展開では無いものの、ちゃんとそれがどれだけ大事な”もの”だったかが、切々と語られた場面が有り、悲痛とも言える状況にも関わらず、あぐりこが笑って「千代が助かればそれで良い」ですからね!
このシーン辺りまで、千代がひたすらにあぐりこを助ける展開が続いていたのですが、ここで「二人は完全に両想いなんだな!」と感じられて非常に萌えました(笑)
基本的にシリアス路線である事も有り、直接的なイチャイチャといった要素は少なかったですが・・・上記のようにあぐりこと千代の繋がりという点での百合要素は頂いた情報通り、相当に濃かったです!
と、ちょっと仰々しい見出しですが”阿豪平八郎”という人物は小物で悪役、決して物語の登場人物としては好かれるキャラでは有りません。
何せ、千代やあぐりこを心配するような優しい面を見せつつも、結局はあぐりこを逃がさない、逃げた千代を害そうとする人物ですからね。
ですが、個人的にはこの平八郎の言動こそが「狐霊の檻」を子供向けであっても子供騙しにしていない要素の一つだと思います。何故かと言えば、その日和見とも言える-父や兄の言動によって左右される-優しさが、ある意味で非常に人間らしいから。
父や兄・・・つまり阿豪の家という組織の都合によって、それまでに優しくしていた人へ厳しく接する、迫害する。
父や兄という周囲に人物の言動によって、人への接し方が優しくなったり厳しくなったりする。(その原因は父や兄へのコンプレックスや認められたいという気持ち)
これを現実に当てはめれば会社や学校という”組織”、親や友達(世間と言っても良いかもしれません)の都合や言動によって、人への接し方が左右されていないか?となります。
イエス・キリストの「罪のない者だけが石を投げよ」じゃ有りませんが、果たして自分の胸に手を当ててこうした事に一切覚えが無い人がどれだけ居るでしょうか。
作中では平八郎が元々はちゃんと優しい気性の者であった事が示唆されている・・・子供の頃にあぐりこに同情して父親に殴られて説教されていたシーンが有ります。
平八郎の言動を偽善者と貶す事は簡単ですが、何故彼がそうした人物になった、なってしまった事を考えると子供、大人問わず向き合っていかなければならない問題が見えて来る事になり、そこがお話としての秀逸さの一つだと思います。
結論としては斬新な設定や展開などは無いものの、お話の流れや人物設定、描写が非常に丁寧で総合的な完成度が高いため非常に楽しめます。
百合的にも直接的なイチャラブといった物は少なめ・・・いやまぁ、脱出計画を隠す一環としてあぐりこが千代に傷を付ける・・・肌蹴た肩に牙を立てたシーンとか、想像すると、ね・・・グヘヘ(*´Д`)
(o ̄∇ ̄)=◯)`ν゜)・;'
す、すみません・・・。冗談はともかくとして、そうした直接的な絡みは少ないものの、二人の絆を感じさせる展開は百合的に非常に楽しめるのは確か。
作中に挿絵などはほとんど無いためビジュアル的には少々物足りない事、価格がやや高め、電子書籍が(記事執筆時点では)無い事など、やや手を出し辛い点は有りますが内容的な良さはそれを補って余りある良作と言って良いかと!
上記のように価格面などの点で、やや手を出し辛いのがネック。 幸い児童文学という事で、多くの図書館に所蔵されているようなので、まずはそちらで読んで見るのも良いかと。
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