- 「キミノスケープ」 宮澤伊織
「裏世界ピクニック」の宮澤伊織先生の作品。「裏世界ピクニック」を意識したのか、現実世界と同じような-でも人が全く居ない、唐突に世界の改変が起こる-異世界に主人公が迷い込むストーリー。
百合作品では有るもののヒロインは明確には登場しない・・・迷い込んだ異世界でヒロインが残したと思われる文字(痕跡)を辿る物語であるため見方が分かれそうな作品。
穿った見方をすれば追い求めた人物が人間であるかも分からず、かなり異色な作品だと思いますね。
「四十九日恋文」 森田季節
現状だと「スライム倒して~」が好調な森田季節先生の作品。
死者と49日間メールでやり取りが可能となった世界が舞台で、死んでしまった恋人とメールでやり取りするというストーリー。
本作の特色としてメールで使えるのは最大49文字で、1日経つ毎に使用できる文字が1文字ずつ減るという制約があること。
そのため短い文章のやり取りで愛情を示す・・・短歌のようなやり取りが多く、森田季節先生の既刊「ウタカイ」に近い印象が有りますね。
まぁ設定が設定だけに手放しでハッピーエンドとは言えないのが複雑な作品では有りますが。
「幽世(かくりよ)知能」 草野原々
「最後にして最初のアイドル」の草野原々先生の作品。
「幽世(かくりよ)」と呼ばれる世界をコンピューターに見立てて計算結果を得られる世界が舞台。
二人のヒロインが世界について色々と語る展開・・・と言うと大人しい印象ですが、草野原々先生の作品なので色々と衝撃の展開が有ります。
勿論、「最後にして最初のアイドル」と同じように、ちょっとグロい描写・・・髪を皮膚ごと引っぺがすとか有ります((( ;゚Д゚)))
色々と難解なので、ちょっと説明が難しいですが、SFらしい設定や世界観の捉え方に満ちており、二人の最期もある意味で非常に百合らしく、独特の面白さがある作品でしたね。
「彼岸花」 伴名 練
作者の方は寡聞にして存じ上げませんでしたが、今回の作品の中では一番好み&面白い作品でした!
二人のヒロインの交換日記の内容、という体で進む本作ですが、当初は大正の女学生百合と見せかけておいて、途中から「んん?」と思わせる展開が秀逸。
作品の冒頭で”吸血鬼百合”と解説されているのにも関わらず、それが抜け落ちていた事に気付かされる程に”大正の女学生百合”らしい展開でスタートしたのは非常に面白かったです。
また大胆な世界観とそれに重要な意味があるストーリー展開、そしてヒロイン達の末路が切なくも希望があるのも好印象でしたね。
「ピロウトーク」 今井哲也
短編漫画なのであまり深く話すとネタバレになるのですが・・・前世で大切な枕を無くし今生では眠る事が出来ない先輩と先輩を慕うが故にそれに付き合う後輩の物語、でしょうか。
手放しでハッピーエンドであるとは言えず、そこはちょっと人を選びそうですが、SF的な設定や先輩と後輩の気持ちの動きが印象的で、そこは面白かったですね。
総評
全体的にほぼ二人のヒロインだけで進む話が多く、ある意味で古典的な百合なイメージが有りますね。まぁ短編作品なのであまり登場人物は増やせないので、そこは仕方ないところでしょうか。
また微妙に荒廃しているような印象の世界観の作品が多いのも特徴で、イチャラブ&完全にハッピーエンドな作品が一つも無いというのがr(^^;)
お話としては面白い作品ばかりでしたが、ストレートな百合が好きな方にはちょっと合わないかも?という気もしますね。
インタビュー記事の常ですが、インタビューされた方の考え方で触れる事で新しい見方や”この人はこう考えるのか”という事が知れるのは面白いです。
特に月村了衛先生の「~百合を否定するようなことがあれば、「百合に救われた」と言っている人間の孤独を否定することになりますよね。そういった人間の孤独に向き合っていくのが作家ではないでしょうか。」という文言は非常に印象的でした。
また月村了衛先生は「百合とはわび・さび(侘・寂)のような”感性”で理解するもの」、「ヒーローとヒロインの恋愛はいらない」と言われるリスクを感じていた、などの主旨の回答をされており、こちらも百合や作家さんの状況を考察する上で興味深かったですね。
作品の紹介がメインのパートで管理人には馴染みが薄い実写映画やSF小説などの作品紹介は非常に有意義でした。
一方で”~ガイド”なコンテンツに有り勝ちな「なんで○○が入ってないんだ!」と感じる事は多そうだなと思いましたね(笑)
例えば管理人の目線からすれば「未完(打ち切り)作品である「天槍の下のバシレイス」が掲載されているなら「ひとつ海のパラスアテナ」も載せても良いだろ!」ってな感じで(笑)
あと気になったのは”百合SFガイド2018”と2018年でありながらラインナップが妙に古い(特にアニメ作品)のは何とも言えないところ。
いやまぁ古い作品を取り上げる事自体は良いのですが・・・アニメの場合、流石に1990年代作品が半分(6作品中3作品)を占めるのはどうかと(苦笑)
百合界隈以外でも超有名な「少女革命 ウテナ」はまだともかく「Serial experiments lain」や「バトルアスリーテス 大運動会」とか、マイナーな部類に入る上に下手こくと「生まれる前の作品だよ」と言いかねない読者が居ると思うと、2010年代作品を一つくらい入れても良かったんじゃないかな、と思う所では有りますね。
※念のために書いておきますが「Serial experiments lain」や「バトルアスリーテス 大運動会」が悪いという意味では有りません。と言うか「バトルアスリーテス 大運動会」に関しては当時、色々と百合妄想してましたし(笑)、視聴していたTVアニメ版は普通に面白かったです。(個人的にはアンナが印象的でしたね)
個人的には「レガリア The Three Sacred Stars 」とか、このリストに入っても良いと思うのですが、どうでしょう?
※当サイトの関連記事
レガリア The Three Sacred Stars
ひとつ海のパラスアテナ
作品コンテンツはイチャラブな展開はしないものの、お話としては面白く「SFと百合をテーマにすると、こういう雰囲気の作品になるのか」と楽しめます。
インタビュー記事や作品リストも、少なくとも管理人に取っては新しい見方や知らない作品を知る事が出来て有意義でした。
一方であまりSFに興味が無い身としては百合特集以外はあまり読む気にならず、実質的なボリュームは約120ページほどであり、少々高価な雑誌である事もあってコスパ的には微妙なところ。
品薄気味な傾向がある事も手伝って、読み応えは有るが手放しではお勧めし辛い面もある雑誌となっていますね。